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不定冠詞の意味するもの―具象名詞と抽象名詞―(国際コミュニケーション学科)

研究室からこんにちは(短期大学)
日本人が英語をマスターする上で一番困難なことは、日本語にはない冠詞や単数・複数の概念を習得することだと思われます。冠詞は「総称性(genericity)」と「定性(definiteness)、あるいは定性(definiteness)と不定性(indefiniteness)」を表すことが一般的に知られていますから、これらを具象名詞(今回は特に普通名詞)と抽象名詞に焦点を絞って考えてみましょう。総称性とは「全体を表している」ことを示し、定性とは「特定のものを指している」ことを示します。中学校ではa(n)は不定冠詞であり不特定のものを指し、theは定冠詞で特定のものを指すと習ったと思います。これは具象名詞では正しいですが、抽象名詞では厳密には正しいとは言えません。まず、具象名詞について考えてみましょう。
 「犬(というもの)は人間に忠実である。」
① Dogs(総称)are faithful to humans.
② A dog(総称)is faithful to a human.
③ (*)The dog(総称/定)is faithful to a human.
④ *The dogs(定)are faithful to humans.
 ①では犬を複数形にすることで、特定化することなく、しかも漠然と多数の犬を表していますから、一番良い表現となります。②では不特定の犬1匹で、特定化することなく全体を表していますが、1匹しか述べていませんから若干現実性には欠けますがOKです。③では1匹の犬を持ってきてtheを使うことで「犬というものの」と全体を表すと考えると正しいですが、「その犬」が特定の犬を表すと考えると間違いです。つまり、③の表現は誤解を招く表現であると言えるので、お勧めしません。④では複数形を使うことで多数の犬を表していますが、同時にtheを使うことで特定なものであると言っています。つまりすべての犬を指そうと完全を期しているように見えますが、ではこのようなことは可能でしょうか? それは不可能だと言われそうですね。つまり、厳密なことを言うことは矛盾を生む(ねこのような犬の存在)可能性をはらんでいるのです。そこで、このように突っ込まれる危険性のある表現は使わないのです。そこで、④の意味は「その犬たちは人間に忠実である」となります。まとめると、具象名詞(その中で特に普通名詞)は「無冠詞で複数形にしたり、不定冠詞a(n)をつけることで総称性を表すことができる」また、「定冠詞theをつけることで(単数形のとき)総称性を表すことができる」ということができます。
 次に抽象名詞と不定冠詞a(n) や複数形との共起の可能性を考えてみましょう。今回は簡単にするため定冠詞theを省いたもので総称性や定性が考えられるのかを調べてみます。


抽象名詞はもともと、ある1つの概念を表しますから、不定冠詞a(n)をつけたり、複数形の(e)sをつけずに総称性を表すことは間違いがありません。それに不定冠詞a(n)をつけたり、複数形の(e)sをつける操作は具象化の操作になり、定性や不定性を表すことになります。しかし、複数形は1つに特定していませんから依然として抽象性が高く、具象性が低いと言わざるを得ません。つまり、不定性が高いことになります。反対に抽象名詞で具象化が進み定性が高くなるのは、1つに絞ったa(n)+抽象名詞になります。因みに、a(n)がついてもtwo, threeと数字が抽象名詞につくことは極めてまれです。というのは抽象名詞にはやはり具象名詞のような「形」が存在しないからです。文脈(context)により、抽象名詞は具象名詞化し、ほぼすべてD型抽象名詞になり得るはずですが、実際は上記の特性とその抽象名詞の持つ概念との関係で、たとえD型抽象名詞でも状況に応じて使い分ける必要があります。まとめると、「抽象名詞に不定冠詞a(n) がつくと不定ではなく、弱い定になる」ことがわかります。
He felt pity for the woman, bound to such a man for life.(彼は一生そんな男にしばられ
ている女を気の毒に思った。)(ジーニアス英和大辞典)
It is a pity that you must go home so soon.(もうお帰りにならなくてはいけないとは残
念です。)(〃)
そうは言っても、どのような抽象名詞がD型抽象名詞になるのかがわかれば、日本人にとって英語学習が少し楽になります。よく使用される抽象名詞は具象名詞と同じような使い方がされるのですが、では「どのような抽象名詞がよく使用される抽象名詞なのか」ということになりますが、現在のところ、残念ながら少しの傾向(絶対ではない)しかわかっていません。
傾向1. 否定的な概念は人の注意を引きやすく(人の不幸は蜜の味)定性も高まり、弱い定性を表す(e)sや、さらに強い定性を表すa(n)がつきやすくなる。
declare war on an enemy(敵に宣戦布告する)(ジーニアス英和大辞典)
a nuclear war(核戦争)(〃)
Star Wars(映画の題名)
傾向2.抽象名詞に形容詞がつくと、より特定化されたものとなり定性が高まるのでa(n)がつきやすくなります。
Give me time to try again.(もう一度やってみる時間をください。)(ジーニアス英和大辞
典)
Have a good time!
そう簡単にネイティブ・スピーカーのように抽象名詞を使いこなせそうにありません。悪しからず。(KN)