ブログ

子どもコースの授業で大切にしていること ―多様性がもたらす学び―

研究室からこんにちは(短期大学)
●多様な意見が学びを深める

教室はまちがうところだ みんなどしどし手をあげて
まちがった意見を言おうじゃないか まちがった答えを言おうじゃないか
まちがうことをおそれちゃいけない まちがったものをわらっちゃいけない
まちがった意見を まちがった答えを ああじゃないか こうじゃないかと
みんなで出しあい言いあうなかでだ ほんとのものを見つけていくのだ
そうしてみんなで伸びていくのだ
(蒔田晋治『教室はまちがうところだ』子どもの未来社、2004年より抜粋)

この詩は、小・中学校教師だった蒔田晋治さんの作品です。現在では絵本として出版され、新年度の教室でよく読まれています。この詩に描かれているのは、子どもたちが自分の思うところを安心して話し、聴き、お互いの意見の違いに気づき、それを突き合わせながら真理に近づいていこうとする教室風景です。意見の多様性が、子どもたちの学びを深める要件になっています。
私がスクーリングの授業において大切にしたいのは、そんな教室の一コマです。授業で出会う学生さんの多くは、保育士になりたいという共通の目標をもっていますが、保育士をめざす動機はさまざまで、キャリアも年齢も異なります。この多様な経験をもつ学生さんが同じ場に集まり意見を交わす。この時間がとても貴重なのです。

●「自分事」として考える
たとえば、「保育における早期教育」について考えようとするとき、ある人は、親としての自分の子育て経験をもとに早期教育の有効性を語ります。このような意見が述べられると、何か言わずにはおれない人がいます。子ども側の立場で、早期教育によって苦しめられてきた人です。
いずれも自分の体験にもとづく意見ですが、その後の学びを追っていくと、このような意見の対立は、理解を深める契機になっています。保育に関する論点について、テキストのどこかに書いてある「他人事」から、自分自身の問題としての「自分事」へ、とらえ直しがはじまるのです。

●自分の生き方と対峙する
またそれは、自分自身の生き方や育ちを振り返ることにも繋がります。授業後、「自分の子育ては大成功だと思っていたけれど、当時、わが子はどう感じていたのだろうか」、「親の考え方は受け入れがたいが、親自身も孤独で辛かったのではないか」等々の声を聴きます。そこには、親として、あるいは子どもとして、自分自身が経験してきたことをあらためて見つめ、新たな意味を見出そうとする作業の跡が見られます。
このように、自分の生き方や育ちを相対化していく作業は、ときに痛みを伴うこともありますが、経験至上主義の保育実践から離れるためには、大切なプロセスであると考えています。

●自分の課題を発見する契機に
あらためて、保育士とはどのようなしごとでしょうか。全国保育士会倫理綱領には、保育士の使命として、3つの宣言が明記されています。

・私たちは、子どもの育ちを支えます。
・私たちは、保護者の子育てを支えます。
・私たちは、子どもと子育てにやさしい社会をつくります。

保育の実践レベルで考えるなら、たとえば、自分の経験とは異なる「子どもの育ち」や「保護者の子育て」にも寄り添いつづけることや、自分の経験のみならず保育士としての専門性に導かれる「やさしい社会」をめざしていくこと等が求められます。つまり、子ども・保護者の多様性を前提として、専門性にもとづく保育実践ができるか、ということが常に問われるのです。
通信教育では、自学自習という学習スタイルが基本です。だからこそ、多様な価値観が同居する教室での学びを、自分の発達課題・学習課題を発見し追究する契機にしていただきたいと思っています。「みんなで出しあい言いあうなかでだ/ほんとのものを見つけていくのだ」。こんな教室風景をめざしながら、皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。

首藤貴子