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学習者と一緒に考える日本語の不思議

研究室からこんにちは(短期大学)
テレビのクイズ番組で漢字や四字熟語、ことわざなど日本語に関する問題が出題されているのを
よく見かけますが、自分の母語である日本語について深く知ることは楽しいものです。日本語教師
は外国人に日本語を教えることを通して、日本語の面白さを日々発見できる点が魅力です。しかし、
それはクイズで出題されるようなものとは違って、日本語を学ぶ外国人の視点でなければ見つけら
れない「問題」に日本語教師は答えを求められます。たとえば、外国人に「鳥が空を飛ぶ」とは言
うが、「鳥が空で飛ぶ」と言わないのはなぜかと質問されたら、多くの日本人はうまく答えられない
のではないでしょうか。日本人は子どもの頃から無意識に日本語を話しているので不思議に思わな
いだけで、外国人の目からは不思議に思える点がいくつもあります。
 私は日本語の文法を研究する上で、外国人の目から見た日本語の不思議に着目するようにしてい
ます。たとえば、中国語を母語とする日本語学習者の発話に、(1)のような誤りが見られます。
(1) [大学の面接試験で「大学に入ったら英語も日本語も一生懸命勉強します」と答えなさい
(2) と教師に言われて]
??先生、それは嘘のような感じがあるよ。
     cf. 先生、それは嘘のような感じがするよ。
(1) では、「感じがある」は不自然に感じられ、「感じがする」に言いかえれば、適切な文になります。
(2) しかし、いつも「感じがある」が不自然になるかと言えばそうではありません。実際に「感じ
(3) がある」が使用されても十分自然な日本語になる場合があります。
(3) a. 駅の近くで隠れ家のような感じがあるが、とてもきれいなお店です。
(http://tabelog.com/osaka/A2707/A270701/27064660/dtlrvwlst/6018798、2014/9/23)
  b. 10代後半の男です。数ヶ月ほど前から喉に何か詰まってるような感じがあります。
(http://oshiete.goo.ne.jp/qa/8267663.html、2014/9/23)
 (2)では「感じがある」を使っても不自然には感じられず、「感じがする」で置き換えることもで
きます。このようにある時は正しく、ある時は誤りになるような表現は学習者にとって難しく、ど
んなとき使えるのか疑問に思われます。どのような場合に「感じがある」が使えるのかと聞かれた
ら、あなたなら何と答えますか。辞書を見ても、文法書を見ても、答えはありません。
私は現在このような「Nガアル」と「Nガスル」がどのようなときに接近するのかという問題を
研究して、次のような仮説を立てました。それは①「一般に誰でも感じる」という一般論を述べ
る場合と②「対象の中に感覚がある」と感じられる場合に「Nガアル」が「Nガスル」に近づく
ということです。たとえば、「イノシシの肉は臭いがある」は①です。誰が感じるかは関係がなく、
誰でもそう感じることを表しています。話者が今感じていることを表す場合には、「わあ、いい香
りがするなあ」のように「Nガスル」が使われ、「??いい香りがあるなあ」のように「Nガアル」
では言えません。(2a)の「隠れ家の感じがある」も、訪れた人は誰でもそう感じると伝えたい場
面だと考えられますので①に当てはまります。また、(2b) の「喉に何か詰まっている感じがある」
は②です。この文は自分の身体の中に感覚を生じさせる原因が存在していることを述べており、
このような場合には「Nガアル」が使われやすいです。自分の身体以外にも「カラメル風味があ
るカスタードクリーム」や「木の香りがある家」のように、ある対象の中に感覚をもたらすもの
が存在しているように感じられる場合は、「Nガアル」で表されます。
「感じがする」と「感じがある」のような微妙な日本語の使い分けなんて、普通の日本人は関心
も持たないかもしれません。しかし、日本語学習者の視点に立って日本語を見つめてみると、新
たな世界に出会い、発見があります。学習者と一緒に日本語の不思議を発見する楽しさをあなた
にも知ってほしいと思います。

愛知産業大学短期大学国際コミュニケーション学科 
専任講師  小竹 直子